本の覚書

本と語学のはなし

トム・ソーヤーの冒険/マーク・トウェイン

トム・ソーヤーの冒険 (新潮文庫)

トム・ソーヤーの冒険 (新潮文庫)

 職場で読もうと思って積読の中から引っ張り出してきたのだけど、職場ではなかなか集中できない。迷った末に、夜勤の友にはハーフボリュームバイブルという薄くて軽量の中型聖書を持って行くことにした。新共同訳で、旧約続編や引照はついていない。文字は通常の中型聖書と同じ大きさで読みやすい。

 『トム・ソーヤーの冒険』だが、予想していたとおり、『ハックルベリイ・フィンの冒険』に比べるとあまり面白くはない。トム・ソーヤーというのは、結局のところ社会の文法の中で、せいぜい許容され得る程度の破格を時々演じるだけで、文法自体を無化する力は秘めていない。彼の「冒険」はだいたいにおいて遊びであり、本に書かれたとおりにそれをなぞることでしかない。

「最近は隠者ってそんなに敬われないんだよ」とトムが言った。「もう昔とは違うんだ。だけど海賊は、いつだって一目置かれる。それに隠者は見つかるかぎり最悪の場所で寝なくちゃいけなくて、粗布だの灰だのを頭に被って、雨に打たれなきゃいけなくて――」
「なんで頭に粗布や灰なんか被るんだ?」とハックが訊いた。
「さあね。そういうことになってるんだよ。隠者はかならずそうするんだ。隠者だったらそうしないといけないんだよ」
「俺は御免だね」とハックが言った。
「じゃあどうする?」
「さあね。とにかくそんなことはしねえ」
「だってさハック、しなきゃいけないんだよ。どうやって逃れるってんだい?」
「そんなこと我慢しねえさ。あっさり逃げるね」
「逃げる! そんなのまるっきり隠者失格だよ。隠者仲間の面汚しだ」(p.162)*1

 だがしかし、このようにハックルベリイが登場すること、そして郷愁をベースとしながらも、宗教的欺瞞に満ちたかつての共同体に向けて辛辣な毒舌がちりばめられていることによって、だいぶ救われているようだ。

*1:傍点部分は太字に変えた。