本の覚書

本と語学のはなし

【モンテーニュ】われわれの欲求は煮え切らなくて【エセー1.53】

 モンテーニュ『エセー』第1巻第53章「カエサルの一句について」を読了する。

Nostre appetit est irresolu et incertain: il ne sçait rien tenir, ny rien jouyr de bonne façon. L'homme, estimant que ce soit le vice de ces choses, se remplit et se paist d'autres choses qu'il ne sçait point et qu'il ne cognoit point, où il applique ses desirs et ses esperances, les prend en honneur et reverence: (p.310)

われわれの欲求は煮え切らなくて、不確かで、なにごとも、しっかりとつかまえたり、正しく享受したりすることができない。そして人間は、これは、自分がつかまえているものが悪いせいだと考えて、自分が知りもしなければ理解もしていない、別のものでもって、わが身を満たし、これを摂取して、そのことに自分の欲望や希望を託しては、それらをもてはやし、あがめ奉ってしまう。(p.314-5)

 人は正しく欲求することも、正しく享受することもできず、不正に欲求したものに、自らの希望を託して、持ち上げる。


 この後に、最後の一句として、カエサルの『内乱記』の一文が引用される。ただし、カエサルの意図は、モンテーニュの主張を補強するようなものではないらしい。
 そのせいか、(b) ではルクレティウスからも2つの引用が行われ、タイトルと中身のバランスを欠くことになった。
 だが、モンテーニュの引用は必ず原著者の意図を汲んでいるというわけではなく、それは本人も承知の上であるし、書かれた内容がタイトルからさまよい出ることもしばしばあるのであって、この章がことさら奇異なわけではない。