本の覚書

本と語学のはなし

【モンテーニュ】あの青春の日々の濃厚なキスも【エセー1.55】

 モンテーニュ『エセー』第1巻第55章「匂いについて」を読了する。

Mais à moy particulierement, les moustaches, que j'ay pleines, m'en servent. Si j'en approche mes gans ou mon mouchoir, l'odeur y tiendra tout un jour. Elles accusent le lieu d'où je viens. Les estroits baisers de la jeunesse, savoureux, gloutons et gluants s'y colloyent autresfois, et s'y tenoient plusieurs heures apres. (p.315)

もっともわたしの場合は特に、このたっぷりと生えた口ひげが、その役割を果たしてくれる。手袋やハンカチを口ひげに近づけたりすると、その匂いが一日中とれない。どこに行っていたのかも、ひげのせいでわかってしまう。あの青春の日々の濃厚なキスも、おいしくて飽くことをしらぬ、ねっとりした感触が、あのころは、何時間たってもそこに残っていたものだ。(p.325)

 モンテーニュは聖人君子というわけではない。センシュアルな面も多分に持ち合わせているし、それを隠そうとするでもない。ときどきそうした情熱がほとばしるような文章に出会うことがある。


 第1巻は残り2章である。読み始めた頃は、ここまで来ることができると信じていたわけではない。大概の私の企てのごとく、中途で投げ出す可能性の方が高いと考えていたはずである。
 今のペースで続けるならば、時間はかかるにしても、最後まで読み通せるだろう。