本の覚書

本と語学のはなし

『The Turn of the Screw』


Henry James『The Turn of the Screw』(Dover)
 なかなか難しい英語であった。行方昭夫は、海中深く潜ってその意味するところを探り当て、説明をふんだんに補いながら、平明な日本語に置き換えている。それは語学学習者にとってはとても有難いことなのだけど、ジェイムズの魅力は、寄りつき難く曖昧な文体に多くを負っている。翻訳だけを読むならば、非常に多くのものが失われていることを覚悟しなくてはならない。
 もちろん、文体だけではなく、物語全体が曖昧模糊として判然とはしていない。幽霊は果たして本当に現れたのか、家庭教師の幻想に過ぎないのか。これは伝統的な論争の的である。マイルズが学校を追われた理由も最後まではっきりしない。ただし、私はこれは男色に関連するものでないかと思う。幽霊として現れたとされているクイントが、そこに道をつけたのだろう。


 読み終えてみれば充実した読書体験ではあった。果たして今後、難解極まるジェイムズを原文で読むことはあるだろうか。
 翻訳者として行方を持っていることは、二重の意味で我々の幸運と呼べるかもしれない。英文読解の師として、これ以上の人はなかなか得難い。一方で、翻訳を単体として見た時に、ジェイムズの場合、親切の代償がひどく大きいような気がするのである。

The Turn of the Screw (Dover Thrift Editions)

The Turn of the Screw (Dover Thrift Editions)

【参照】