本の覚書

本と語学のはなし

『女中たち バルコン』


ジャン・ジュネ『女中たち バルコン』(渡辺守章訳、岩波文庫
 第一に、和書は通勤のバスの中、勤務前の空き時間、夜勤の合間に読む。原則として家では開かない。そういうものとしてこの作品に対するのは、甚だ不適切であったかもしれない。
 今後は選択の観点を少し変えてみる必要がある。ストーリーが面白くて分かりやすい、厚すぎない、内容をよく知っている、しばらく中断しても差し支えない。かと言って、娯楽に走りすぎてもいけない。(さしあたり、ディケンズマーク・トウェインアレクサンドル・デュマジュール・ヴェルヌモンゴメリ佐藤さとるなんかを念頭に置いている。)新しい本を次々に買う余裕はないのだから、再読にも力を入れたい。


 第二に、戯曲を読むのにも慣れていない。舞台も全く見ない。
 渡辺守章は翻訳家であるだけでなく、演出家でもある。彼が実際この二つの作品をどんな演出で舞台にのせたか、あとがきに比較的詳しく書いている。意外に自由なもんだ。途端に台本に生気が生じたように思われてくる。戯曲を楽しむには、書かれてある通りに想像するだけでなく、演出家として創造しながら読み込む術が必要だ。


 『女中たち』は二人の女中の危険な「ごっこ遊び」。『バルコン』は「幻想館」と称する高級娼家で行われる「ごっこ遊び」。欲望はイメージによってのみ喚起され、イメージにおいてのみヘゲモニーをめぐる闘争を戦うことができる。

女中たち バルコン (岩波文庫)

女中たち バルコン (岩波文庫)