本の覚書

本と語学のはなし

美徳

かかることを悔しなどはいふにやあらむ、さりとていかがはせむ、我はさりとも心長く見はててむと思しなす御心を知らねば、かしこにはいみじうぞ嘆いたまひける。(末摘花10)

「このようなことを臍を噛むなどというのだろうか、しかし、だからといって、どうなるものでもあるまい。ああした女であるにしても、このわたしはいつまでも見捨てずに、最後まで世話せずにはなるまい」とことさら思い決めていらっしゃるが、そうした君のお気持ちをあちらでは知らないのだから、たいそう嘆いておられるのであった。


 末摘花と関係を持ったことを後悔する源氏ではあったが、この時は彼女の容姿をまだはっきり知っているわけではない。本当に驚くのはこれからである。だが、小学館の全集の注釈によれば、「源氏は、いったん関係した女性を、いつまでも見捨てないという美徳を備えている」。