本の覚書

本と語学のはなし

万葉集「訓読等の違い」


 小学館日本古典文学全集の『萬葉集』を読み始めたが、講談社文庫も本棚には戻さず、一々参照している。訓読の仕方や写本のテキスト批判の相違によって、微妙に意味や響きの異なる歌になる場合があるからだ。
 例えば1巻77を比較してみる。
小学館
【原文】吾大王 物莫御念 須売神乃 而賜流 吾莫勿久尓
【訓読】大王おほきみ 物な思ほし 皇神すめの へてたまへる なけなくに
【訳】 大王おほきみよ ご心配なさいますな 遠皇祖とおすめろぎが 大王にえてつかわしになった わたくしがいないわけではございませんのに


講談社文庫版
【原文】吾大王 物莫御念 須賣神乃 而賜流 吾莫勿久尓
【訓読】わ大王おほきみ 物な思ほし 皇神すめの つぎてたまへる わけなくに
【訳】わが大王よご心配はいりません。皇祖の神が大王についでお与えになった私がおりますものを。


 なお、この歌は元明天皇の即位のとき、同腹の姉・御名部皇女みなべのひめみこが詠んだもの。天武系に対する天智系の不安があったことが、小学館の注に書いてある。