本の覚書

本と語学のはなし

Bel-Ami


 フランス文学の原典講読も、翻訳は一々全部確認しないことにした。幸い『ベラミ』のフランス語に難解なところはあまりない。英語には劣るものの、そこそこスピードに乗ることができる。
 愛の言葉なんかは、生硬な日本語で訳されても感じが出ない。こういうところは原文だけ読んで、邦訳には目を通さない方がかえってよい。

 « Je n’attends rien... je n’espère rien. Je vous aime. Quoi que vous fassiez, je vous le répéterai si souvent, avec tant de force et d’ardeur, que vous finirez bien par le comprendre. Je veux faire pénétrer en vous ma tendresse, vous la verser dans l’âme, mot par mot, heure par heure, jour par jour, de sorte qu’enfin elle vous imprègne comme une liqueur tombée goutte à goutte, qu’elle vous adoucisse, vous amolisse et vous force, plus tard, à me répondre : « Moi aussi je vous aime. » (p.284)

 ――僕は何にも期待していません……何にも望んでいません。あなたを愛しているだけです。あなたが、どんなことをなさろうとも、僕はこれを何度でも繰返し、ありったけの力と熱をこめて、繰返します。あなたがしまいには理解せずにはいられないようにします。あなたの身うちに僕の思いを浸透させずにはいないつもりです。一語一語、一時間一時間、一日一日、あなたの魂の中へ注ぐつもりです。一滴ずつ落ちる水滴のようにあなたの中に浸み透り、あなたを和らげ、軟化させ、後には、あなたも僕に向かって「私もやっぱり、あなたを愛しています」と、言わずにいられないように仕向けるつもりです。(杉捷夫訳,下115-6頁)