本の覚書

本と語学のはなし

Das Kapital


 久し振りに『資本論』。第1版序文の文章について、岩波文庫向坂逸郎訳と筑摩書房「マルクス・コレクション」の今村・三島・鈴木訳を比べる。

Neben den modernen Notständen drückt uns eine ganze Reihe vererbter Notstände, entspringend aus der Fortvegetation altertümlicher, überlebter Produktionsweisen, mit ihrem Gefolg von zeitwidrigen gesellschaftlichen und politischen Verhältnissen. Wir leiden nicht nur von den Lebenden, sondern auch von den Toten. (pp.12-15)

近代的窮迫とともに一連の前代から受けついだ窮迫がわれわれを圧迫している。それは、古くさい旧式となった生産様式が、その反時代的な社会的、政治的諸関係の付随物をともなって残っているということから生ずるものなのである。われわれは生者に悩まされているだけでなく、死者によっても悩まされているのである。(岩波文庫1巻14,15頁)

旧態依然とした生産様式が時代逆行的な社会的政治的状況を伴って生き延びており、そこから生じる苦境が近代的な苦境とならんでわれわれを抑圧している。われわれは生者に苦しめられているだけではなく、死者にも苦しめられている。(筑摩書房Ⅳ巻7,8頁)


 やはり「マルクス・コレクション」は、マルクス翻訳の歴史の中ではかなり思い切った方法論を用いている。マルクスの文章はなかなかいいのだが、直訳には向かない。分かりやすいく噛み砕き、再構成する必要がある。
 若干やり過ぎという気がしないでもないが、普通は原文と対照させて読むものではないから、これでいいのだろうか。