本の覚書

本と語学のはなし

Oedipus Tyrannus


 ソポクレス『オイディプス王』の高津春繁訳。

ἁγὼ δικαιῶν μὴ παρ’ ἀγγέλλων, τέκνα,
ἄλλων ἀκούειν αὐτὸς ὧδ’ ἐλήλυθα,
ὁ πᾶσι κλεινὸς Οἰδίπους καλούμενος. (6-8)

子供らよ、他人の口から聞くべきではないと考えて、あるとしある人に名高いこのオイディプスが自分でここにやって来た。(303頁)


 「使者」という訳語が出てこないので、おやっと思った。Jebbはἄλλωνに注釈を付けてこう言っている。「Redundant, but serving to contrast ἀγγέλλων and αὐτός , as if one said, ‘from messengers, ―― at second hand.’」なるほど、ここではコントラストが重要なのであって、これこそがまず訳出されるべきものだという判断がはたらいたのだろう。
 やっぱりギリシア悲劇、そう簡単ではない。どこまで行けるだろう。