本の覚書

本と語学のはなし

『ナイロビの蜂(上・下)』 〔63,67〕


ジョン・ル・カレナイロビの蜂(上・下)』(加賀山卓朗訳,集英社文庫
 もちろんこれは虚構の物語である。しかし、ル・カレは「著者の覚え書き」の中でこう言っている。「製薬会社のジャングルを旅するうちに、現実に比べれば、私の話は休暇の絵葉書ぐらいおとなしいものだと思うようになった」。


 この本を手に取ったのは、先月、日経新聞の「半歩遅れの読書術」で松浦寿輝が紹介していたからである。「人間というのは何と様々なものの間で引き裂かれた、複雑で愚かで崇高な生き物であることかと溜め息をつかせてくれるという点で、これは真正の文学でもある」(09年5月3日)。しかし、この分野は私と相性が良くないようで、面白いことは面白いのだけど、さらに読み進める気にはなれない。せいぜい純粋な推理小説を、二三試してみるくらいだろう。
 翻訳はショッキングであった。いい意味ではない。たぶんこなれた日本語にしてしまっては、原文のニュアンスが吹き飛んでしまうのだろう。翻訳が難しいタイプの作家であるに違いない。それは理解できる。でも、私は文体に慣れるのに、上巻丸ごとかかった。いくらなんでも、ひどい。

ナイロビの蜂 上 (集英社文庫)

ナイロビの蜂 上 (集英社文庫)

ナイロビの蜂 下 (集英社文庫)

ナイロビの蜂 下 (集英社文庫)