本の覚書

本と語学のはなし

『ベーシック・インカム入門』 〔29〕


山森亮ベーシック・インカム入門 無条件給付の基本所得を考える』(光文社新書
 ベーシック・インカムというのは無条件に個人に給付される基本所得のこと。門倉貴史官製不況』(光文社新書)の中で、ワーキングプアと結びつける形で紹介されているのを読んで以来気になってはいたのだが、気楽に読める入門書もなさそうなのでそのままになっていた。
 本書はそういうものとしては恐らく日本で初めての試みなので、多方面に目配りをした内容になっている。シングル・マザーの要求運動からキング牧師ネグリラッセルやミルやケインズベーシック・インカム運動の現在まで多彩である。これらは互いに断絶していることもあるので、深く掘り下げていないとはいえ、貴重な取り合わせではないだろうか。


 ベーシック・インカムに対してだれでも思いつく反論は、財源と労働インセンティブの二つに関するものだろう。その内、3Kに従事する人がいなくなるのではないかという質問に対しては、以下のように回答している。

従事したいという人がいれば、それこそそこで市場の需要と供給の原則の出番である。仕事が同じ状態のままならば賃金が上がるだろう。3K仕事の賃金の方が大学教員の給料より高くて当然かもしれない。また「きつい」仕事や「汚い」仕事は労働時間を短縮したり、またきつくなくするような技術革新に投資したり、「危険」な仕事は危険度を低くする工夫がなされたり、といったことがなされるようになるだろう。(276頁)


 飢餓への恐れから劣悪な条件に甘んじて労働するということがなくなれば、自然と労働条件改善への圧力がかかるだろうというのだ。
 しかし、現実には一足飛びにベーシック・インカムへというのは難しいかもしれない。著者は先ず四つの変革を提案している。第一に生活保護児童扶養手当を利用しやすくすること。第二に年金を税方式にすること。第三に児童手当の所得制限を撤廃し、給付を20歳未満の全人口に拡大すると同時に給付額を増額すること。第四に所得税控除の給付型税額控除化、すなわち負の所得税を導入すること。これによって、多くの人が部分的なベーシック・インカムを手にすることになる。


 類書がもっと出版されないだろうかと期待している。

ベーシック・インカム入門 (光文社新書)

ベーシック・インカム入門 (光文社新書)

  • 作者:山森亮
  • 発売日: 2009/02/17
  • メディア: 新書