本の覚書

本と語学のはなし

The Moon and Sixpence 光文社版


 しつこいようだが、光文社古典新訳文庫の土屋政夫訳『月と六ペンス』を借りてきたので、9日11日に扱った原文に対応する訳を書き抜いておく。

 価値ある人生とは知りつつも、自分ではそれを生きる強さを持たなかった老画家が、金も名誉も手に入れ、大家と呼ばれるようになったいま、別人の体を借りて人生を生き直そうとする図式には、皮肉っぽい要素も多分にあってもよいのではないか。(土屋訳,281-2頁)


 「another」は「another life」と読まなくてもよいようだ。
 それにしても、この訳文は前半と後半のつながりが悪いような気がする。関係代名詞の処理の仕方で失敗しているのではないか。

 「おれに身を任せたのは、ストルーブへの仕返しの意味がある。窮地にある自分を救ったことへの腹いせだ」とストリックランドはにおわせていた。この言葉は、多くの暗い憶測に道を開く。(土屋訳,284-5頁)


 基本的な解釈は行方訳と同じ。


 丹念に読み比べたわけではないけど、私の一番お勧めは行方訳だ。