本の覚書

本と語学のはなし

『この世で一番の奇跡』


オグ・マンディーノ『この世で一番の奇跡』(菅靖彦訳,PHP
 獅子座さんからの紹介により読んでみる。文学というカテゴリーに入れるべきかどうか迷うが、図書館の分類に従う。ストーリーのある自己啓発本といった感じ。
 最近の悪い癖として、翻訳の稚拙さが徹底して気になり、最初の内はうまく読み進められない。ストーリーも本当に必要なんだかどうだか分からない。廃品となった人間を拾っては蘇生させるラグピッカーだという老人と出会い、普遍的な法則をまとめたという「神の覚え書き」を託され、それを出版しようという物語。
 「神の覚え書き」を簡単に要約してみる。人間は各々全たきものであり、その恵みに感謝しなさい。己のかけがえのなさを主張しなさい。求められる以上のことして、己の枠を超えなさい。賢く選択しなさい。これら全ての根底にあるのは、自分への、他者への、そして神への愛である。自分こそ「この世で一番の奇跡」である。
 獅子座さんは無神論者なのでいささか不思議な感じがしたとのこと。著者と神への信頼を共有しない私にとってもそれは同様なのだけど*1、さらに加えて、知恵を凝縮してマニュアル化しようという情熱にも違和感がある。「ラグピッカー」にとっては有益な道具かもしれないが、人生は「神の覚え書き」ほど貧しくはない。


 なんだかあんまりいい感想にならなくてすみません、獅子座さん。


*1:「毎年、二百七十万リットル以上の血液を送りだしているのです」というような表現も好きではない。