本の覚書

本と語学のはなし

オデュッセイア(上)/ホメロス

 トロイア戦争後のオデュッセウスの帰国譚である。
 戦争でたおれた者もあり(アキレウス)、帰国を待たずに自殺した者もあり(大アイアス)、帰国途中に海で神にうたれた者もあり(小アイアス)、帰国後に妻の不倫相手に殺された者もある(アガメムノン)が、オデュッセウスの場合にはポセイドンの怒りを買ったために、イタケに帰り着くまで10年の歳月を要した。


 主人公はオデュッセウスであるが、彼が登場するのは第5歌(全24歌)からである。物語は、彼が不在のイタケから語り起こされる。
 彼の屋敷には、妻のペネロペイアに求婚する男たちが集まり、好きなように飲み食いして、家の財産を食い潰していく。
 息子テレマコスには、この状況をどうすることもできない。人間の姿を借りた女神アテネに諭され、彼はピュロスにネストルを、スパルタにメネラオスヘレネ(戦争の発端となった女性であるが、戦争後は何事もなかったかのように元の鞘に収まっている)を訪ね、父の消息を知ろうとする。
 一方、イタケの求婚者たちは、テレマコスの帰国を待って殺そうと図っている。


 その頃、オデュッセウスはカリュプソの島にいた。神意によって旅立つことはできたが、ポセイドンに見つかりまたも難破する。
 たどり着いたのはパイエケス人の島。ナウシカア姫に救われ、彼女の両親を始め島の人々に歓待される。そこで、これまでの漂流冒険譚を語るのである。
 一つ目のキュクロプスに食われそうになりながら、その目に丸太を刺して逃れたこと。魔女キルケに部下を豚に変身させられながらも、彼女にうまく取り入ったこと。冥府に行って、すでに死んだ予言者、母、英雄などと言葉を交わしたこと。帆柱に縛り付けてもらってセイレンの魅惑的な歌声を聞いたこと。海の怪物に部下を幾人か食われながらも、何とか逃れたこと。陽の神の島で部下たちが牛を屠ったために、残った部下たちも皆海で神にうたれたこと。そして彼一人、なんとかカリュプソの島にたどり着いたこと、などなど。
 上巻はここまでである。下巻では、イタケに帰国した後、身分を隠して機会を伺い、求婚者たちを退治することになるはずである。


 『オデュッセイア』は『イリアス』よりも、数十年から半世紀近く若い作品と考えられている。そうすると、作者は同一ではないのかもしれない。
 一方で、叙事詩の環などに比べて、この2作品のみ際立った完成度を持っていることを考えると、傑出した天才がそう簡単に2人も現れるだろうかという気もする。
 説は幾つかあるようだが、もちろん結論の出る問題ではない。