現在残されている讃歌は33篇。その内、四大讃歌以外に神話と呼ぶべき内容を持っているのは、4篇しかないそうだ。あとは数行程度の短い詩である。神への呼びかけと祈りしかないのは、叙事詩の朗唱に先立つ序詞のようなものであったからかもしれない。
ホメロスの名の下に伝わっているが、韻律や文体がホメロス風であるというだけで、ホメロスの作というわけではない。ホメロスの子孫を名告るホメリダイという人たちは、叙事詩を歌うラプソドスであった。時に自分たちでも詩作したが、これをホメロスの詩として伝えることもあったようだ。「アポロンへの讃歌」は後世トゥキュディデスがホメロス作として引用している一方、ピンダロスの古注には、ホメリダイの一派であるが、血統上ホメロスには遡れないキュナイトスなる人物がこれを作ったのだと言っている。
本の紹介
古典期以前の叙事詩はホメロスの『イリアス』『オデュッセイア』、ヘシオドスの『神統記』『仕事と日』に限られるわけではない。
それ以外のものを読むための本の情報を貼り付けておく。
ギリシア語の原文と英訳で構成される古典語学習の定番シリーズ。この巻は内容が充実している(現在のヘシオドスの巻は、真作2つと資料的な証言を収めているようだ)。
① ヘシオドス全作品
② ホメロス讃歌
③ 叙事詩の環
④ ホメリカ
しかし、原文にしろ英訳にしろ読むのは大変である。以下に和訳を紹介する(自分で購入したいリストである)。
ヘシオドスの名の下に伝えられる全作品。
『名婦列伝』『ヘラクレスの楯』などの他に、古来の「証言」も収めるという。
ホメロス讃歌の全訳。いずれも絶版だが、沓掛良彦の訳は文庫版を電子書籍として購入できる。
ホメロス外典(ホメリカ)、叙事詩の環(テバイ伝説圏とトロイア伝説圏など)、古代の各種ホメロス伝を収める。
ホメリカはホメロスの名の下に伝わる作品群で、『蛙と鼠の合戦』のようなパロディーもある。この作品でも前5世紀には遡るようだ。
叙事詩の環はホメロスより少し後に作られた叙事詩群であるが、断片的にしか伝わらないようだ。トロイア伝説圏では、ホメロスが歌わなかった部分も扱っている。
これらを読めば初期の叙事詩の事情が大体わかるだろう。
その後、叙事詩はそれほどはやらなかったようだ。ヘレニズム期になるとアポロニウスが『アルゴナウティカ』を書いたり、いくつかの教訓叙事詩や小叙事詩が作られたりした。
ローマではウェルギリウスが『アエネイス』を書いた。ルカヌスの『内乱』は実際の歴史に取材した作品である。