本の覚書

本と語学のはなし

サンディトン ジェイン・オースティン作品集/ジェイン・オースティン

 「イヴリン」は初期作品。パロディーであるらしいが、ディストピアを描いた実験的なおとぎ話のようでもある。


 「キャサリン あるいは東屋」も初期作品。未完。
 姉に宛てた手紙の中で「これまでに出版されたもの、あるいは、これから出版されるであろうどの書物よりも優れていると自負しております」と書いているだけあって、16歳くらいで書いたにしてはなかなか面白い。
 オースティンは、特に女性の置かれていた経済的に脆弱な立場について、社会派にも発展しそうな目を持っている。


 「ある小説の構想――各方面からの手がかりに基づく」は短い小説の構想。
 余白に描写の手がかりとするべき人の名前が書かれている(翻訳では原注)。ヒロインは、人格や才芸の点では姪のファニー・ナイトであり、知性と美貌の点ではまたいとこのメアリー・クックである。メアリー・クックはまた、ヒロインに近づく若い娘の抜け目のなさでもあり、ファニー・ナイトはまた、理想的なヒーローでもある。
 ヒロインはストーカーを逃れて、父親とカムチャッカまでも行くらしい。


 「ワトソン家の人々」は未完であるが、いかにもオースティン的な小説になっただろうと思わせる作品。


 一方、最晩年に書かれた未完の「サンディトン」は、あまりオースティンらしくない。
 サンディトンという海沿いの町を保養リゾートして売り出そうとする人たちの物語で、残されたものを見る限り、まだロマンスが全面に押し出されてはいない。
 しかも、このリゾート計画が失敗に終わるだろうことは、誰もが予感するであろう。若干フローベールのようなテイスト。


 一箇所、行が抜けているところがある。

二人はとても近づいて座っていて、非常に親しげな様子で話を交わしていたので、シャーロ〔この後、1行欠けている〕かったからである。(p.260-1)

 この部分の原文。

They were sitting so near each other and appeared so closely engaged in gentle conversation, that Charlotte instantly felt she had nothing to do but to step back again, and say no word. -Privacy was certainly their object.-