本の覚書

本と語学のはなし

シャーロック・ホームズ全集 第21巻 最後の挨拶/コナン・ドイル

 「最後の事件」(『挨拶』)、付録、原典の文献表、日本語訳版の文献表などを収める。
 シャーロック・ホームズ正典を読み終えた。地名は筋に関係ないものであろうと全て地図に当たったので、イギリスには一度も行ったことはないが、大分地理に明るくなった。
 ホームズ物語の楽しみ方は色々あるだろうけど、私はジェイン・オースティンとも比較しながら、イギリスの社会と風俗の変遷に着目することになるだろう。


 「最後の挨拶」は第一次世界大戦前夜、首相直々の依頼を受けて、スパイの摘発に乗り出したホームズの活躍を描く。既に60歳くらいである。
 短編に切り取られたのはそのクライマックスの場面だが、そこにはかつての相棒ワトソンも登場する。

彼は仕事の手を止めて、かつての友〔ワトソンのこと。「最後の挨拶」は三人称で書かれている〕の肩をつかんだ。「まだ明かるいところできみの御尊顔を拝していなかったね。この年月で、どんな風になっちまったんだい? おや何だ、昔の元気者のままじゃないか」(p.25)

he stopped his work and took his old friend by the shoulders—“I've hardly seen you in the light yet. How have the years used you? You look the same blithe boy as ever.”

 「昔の元気者まま」は原文では「the same blithe boy as ever」となっている。