本の覚書

本と語学のはなし

シャーロック・ホームズ全集 第20巻 マザリンの宝石/コナン・ドイル

 「スリー・ゲイブルズ」「マザリンの宝石」「這う男」「ライオンのたてがみ」(いずれも『事件簿』)の4編、ベアリング・グールドの解説2編を収める。


 ホームズが引退後はサセックスの丘で養蜂を営んだことは、既に『帰還』の「第二のしみ」(東京図書版全集では第5巻)に書かれていた。

現役の探偵として実際に活動しているのであれば、その成功の記録も彼にとってはなんらかの実用的価値があったが、完全にロンドンを引きはらい、サセックスの丘で研究と養蜂に専念する今となっては、名声も彼にとってはいとわしいものとなり、この問題については自分の意志をかたく守ってほしいと、彼は断固として私に申しわたしだのであった。(p.1)

So long as he was in actual professional practice the records of his successes were of some practical value to him; but since he has definitely retired from London and betaken himself to study and bee-farming on the Sussex Downs, notoriety has become hateful to him, and he has peremptorily requested that his wishes in this matter should be strictly observed.


 「ライオンのたてがみ」は引退後にサセックスで起きた事件であり、ワトソンは一切関知していない。ホームズは自分でこれを書くしかなかったのである。
 ワトソンが描くホームズと比べて、自ら一人称で語るホームズは、多少愚鈍であるように思われる。

私の頭は言わばごたごたした収納部屋みたいなもので、ありとあらゆる荷物がその中に収蔵されている――あんまりにもたくさん詰めこんであるので、何を入れたかぼんやりと感じというものでしか思い出せないことになっても無理はない。(p.156)

My mind is like a crowded box-room with packets of all sorts stowed away therein—so many that I may well have but a vague perception of what was there.


 いよいよ60編あるホームズの物語もあと一つを残すだけとなった。