シャーロック・ホームズ全集―詳しい解説/楽しい注/豊富なイラスト (第14巻) 空き家の冒険
- 作者:コナン・ドイル
- 発売日: 1982/12/01
- メディア: 単行本
ベアリング・グールドによる解説1編、「空き家の冒険」「金縁の鼻めがね」「三人の学生」(いずれも『帰還』)の3編を収める。
第13巻までで4つの長編と『冒険』『思い出』に収められた短編は出揃っているから、これからは『帰還』『挨拶』『事件簿』の短編になる。
ここまでで分かったことは、長編と『冒険』『思い出』『帰還』は学生時代に読んでいる。『挨拶』と『事件簿』の検証はこれからである。
ホームズは生きていた。そもそも滝壺に落ちてなどいなかったというのだ。
われわれは滝の崖っぷちで取っ組み合ったままよろめいた。しかしぼくは――これまでにも何度か役に立ったんだが――日本の格闘技であるバリツの心得があったので、相手の腕をさっとすりぬけた。するとあいつはおそろしい悲鳴をあげながら、しばらく死物狂いで足を蹴りあげ、両手で空をかきむしっていたが、ついにバランスを失ってまっさかさまに落ちていった。(「空き家の冒険」p.45)
We tottered together upon the brink of the fall. I have some knowledge, however, of baritsu, or the Japanese system of wrestling, which has more than once been very useful to me. I slipped through his grip, and he with a horrible scream kicked madly for a few seconds and clawed the air with both his hands. But for all his efforts he could not get his balance, and over he went.
バリツ (baritsu) というのは、バートン・ライトという人が日本の柔術を取り入れて作った護身術バーティズ (Bartisu) のことであるらしい。ただし、バーティズが雑誌で紹介されたのは1899年のことであり、ホームズがモリアーティ教授と対決した時よりも、そしてホームズがこれをワトソンに話したときよりも、後のことである。
シャーロキアンにとっては、この程度の矛盾は何ら恐慌を来すものではなく、いかようにも説明をつけることはできるのだが。
しかし、この復活劇にはあまりに無理が多い。
これをどう考えるべきか、シャーロキアンの間にも意見の一致は見られない。ある説によれば、ホームズはやはり死んだのだ。兄のマイクロフトがよく似た従兄弟を3年かけて仕込み、後期のやや性格の異なる探偵を作り上げたのである。
ホームズは死んだのか、モリアーティは死んだのか、二人とも生きているのか、二人は同一人物なのか、ワトソンがでっち上げたのか、ワトソンが殺したのか。そういうことが、空想の限りを尽くして考え抜かれているのである。