本の覚書

本と語学のはなし

シャーロック・ホームズ全集 第15巻 ブルース・パーティントン型設計図/コナン・ドイル

 「一人きりの自転車乗り」「ブラック・ピーター」「ノーウッドの建築業者」(以上『帰還』)と「ブルース・パーティントン型設計図」(『挨拶』)の4編を収める。


 前回、シャーロック・ホームズの兄マイクロフト・ホームズの名を出した。
 「ブルース・パーティントン型設計図」では少し詳しくその正体が明かされる。

兄が政府機関に勤務していると考えても、むろん間違いではないが、時には兄が英国政府そのものだと言っても、ある意味では当たっていないこともない。(p.141-2)

You are right in thinking that he is under the British Government. You would also be right in a sense if you said that occasionally he is the British Government.

 マイクロフトは下っ端役人に過ぎない。それが時に「英国政府」そのものなのである。どういうことかと言えば・・・

そうだね、彼の地位というのが、そもそも型破りだ。それは独力で築きあげたものだが、前例もなければ今後も現れないだろう。頭の中がじつに秩序整然としており、情報を蓄積する能力に至っては、とても人間わざとは思えないほどだ。同じ能力をぼくは犯罪捜査に向けたが、兄貴はその特殊な仕事に注いでいるというわけだ。各省で決定したことが、すべて兄のところへ回されてくる。いわば中央取引所か手形交換所みたいな存在で、政策全般を調整する役目を果たしているわけだ。(p.142)

Well, his position is unique. He has made it for himself. There has never been anything like it before, nor will be again. He has the tidiest and most orderly brain, with the greatest capacity for storing facts, of any man living. The same great powers which I have turned to the detection of crime he has used for this particular business. The conclusions of every department are passed to him, and he is the central exchange, the clearing-house, which makes out the balance.

 そして更には・・・

国家の政策がマイクロフトの一言で決定されたということも一度や二度ではない。(p.143)

Again and again his word has decided the national policy.

 しかし、彼は集められた情報から推理判断するのは得意でも、自分で情報を集めることには全く興味がない。
 国家の一大事ではあっても、その能力を使って自ら捜索しようとはせず、弟を頼るのである。