本の覚書

本と語学のはなし

シャーロック・ホームズ全集 第13巻 最後の事件/コナン・ドイル


 「シルヴァー・ブレイズ」(『思い出』)、「緑柱石の宝冠」(『冒険』)、「最後の事件」(『思い出』)を収める。


 「最後の事件」が本当に最後の事件になったわけではない。
 ホームズとモリアーティ教授は、スイスはライヘンバッハの滝で格闘し、組み合いながら滝壺に落下したのだと考えられた。しかし、どちらの死体も回収されることはなかったのである。
 3年の大空白時代を経て、ホームズは帰ってきた。チベットまで行ってきたらしい。その話は次の巻で展開される。

当局の人たちの調査の結果、ふたりは――こんな場所で争えば当然のことだが――取っ組み合ったまま滝壺へ転落したものと、ほとんど疑いの余地なく断定された。死体収容の望はまったくなく、かくして当代一の大悪党と、当代一の名探偵は、渦まき沸きかえるおそろしい滝壺の底深く、ともに永遠に横たわることとなった。(p.145)

An examination by experts leaves little doubt that a personal contest between the two men ended, as it could hardly fail to end in such a situation, in their reeling over, locked in each other's arms. Any attempt at recovering the bodies was absolutely hopeless, and there, deep down in that dreadful cauldron of swirling water and seething foam, will lie for all time the most dangerous criminal and the foremost champion of the law of their generation.

 翻訳は中野康司。ちくま文庫ジェイン・オースティンの6大小説を翻訳した人だ。
 『分別と多感』のところでも書いたことはあるが、思い切って分かり易く訳す傾向がある。「the foremost champion of the law of their generation」が「当代一の名探偵」になるのであれば、翻訳とは実に簡単なものである。ちなみに、ここでのチャンピオンは主義などのために闘う人のことを指す。