本の覚書

本と語学のはなし

シャーロック・ホームズ全集 第12巻 ボール箱事件/コナン・ドイル


 「ボール箱事件」(『思い出』まはた『挨拶』)、「技師の親指」(『冒険』)、「せむし男」(『思い出』)、「ウィステリア荘」(『挨拶』)を収める。


 「ボール箱事件」は、ドイルの意向により、『思い出』に収録されなかった。初めこれを収めたアメリカ版の『思い出』でも、第2版以降は削除されている。理由は定かでないが、不倫を扱っているせいだと推測されている。そして、読心術の部分のみ「入院患者」の冒頭に移植されたのである。
 その後「ボール箱事件」は『最後の挨拶』に収められることになったのだが、最近ではほとんどの編集者が『思い出』に戻しているようだ。


 「せむし男」は、今ならこのタイトルで出版することは出来ないだろう。
 河出書房新社版は「曲がった男」、光文社文庫版は「背中の曲がった男」となっており、昔は「かたわ男」であった新潮文庫版でも、今は「背の曲がった男」となっている。
 「曲がった男」としているのは、タイトルが示すのが背の曲がった男のことではなく、心の曲がった男のことであるのかもしれないという含みを残すためと思われる。原題は「The crooked Man」である。