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十字軍全史/新人物往来社編

十字軍全史 (ビジュアル選書)

十字軍全史 (ビジュアル選書)

  • 発売日: 2011/01/22
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 写真や絵がたくさん載っている楽しい入門書。しかし、ビジュアルにこだわるなら、詳細な地図や人物の相関図なども欲しいところだ。複数の執筆者がいるので、固有名詞の表記が統一されていなかったり、通史の流れがちょっと分かりにくかったりもする。

 第四回十字軍は本来の目的から外れ、ヴェネツィアの商業利益のためにコンスタンティノープルの略奪に終わったとして、悪名高い遠征である。
 実際のところ、十字軍がヴェネツィアと結んだ契約を履行できそうにないために、ヴェネツィアの要求を受け入れて落としたのは、当時ハンガリー領となっていたザラである。コンスタンティノープルの方は、ビザンツの内紛に巻き込まれる形で展開していったのであって、元来ヴェネツィアの予想していたところではなかったようだ。しかし、そこから莫大な利益を引き出したために、十字軍転向の犯人として仕立てられたのだろうという。

 フランス王ルイ九世の二回目の十字軍 *1は、なぜかチュニスを目指した。その理由はいろいろ推測されているが、シチリア王となっていた王の弟のためである可能性が高い。ドイツのシュタウフェン家がシチリアを経営していた頃、チュニジアシチリアに年貢を納めていた。ところが、フランスがシュタウフェン家の支配を覆してからはこれをやめ、しかもシュタウフェン家の残党を匿っていたのだ。
 ルイ九世は先ずチュニジアを陥落させて弟の利害を満足させ、しかる後にエジプト(マムルーク朝は当時のイスラムの中心となっていた)へ兄弟そろって遠征するつもりであったのかもしれない。だがチュニス上陸後、早々に疫病に襲われ亡くなってしまった。

*1:日本の教科書では第七回十字軍として数える。