本の覚書

本と語学のはなし

一本の茎の上に/茨木のり子


 公務員試験対策の講師に応募しようか迷ったが、決して知識の有無が良い講師と悪い講師の境目となることはないのだと思いとどまる。それに、私が公務員志望者にアドバイスできることといえば、「自分が盗人でないか常に疑いなさい」ということくらいしかないだろう。小学生でもできる程度の仕事しかしなかった私は大泥棒であった。


 何か書きたいということは前から言ってきたが、ようやく小さな詩をたまにつくる。これがどう発展していくかは分からない。本格的に詩作するのか、物語を作るようになるのか。どうもならずに終わる可能性の方が高くはあるが。


 それはよいとして、茨木のり子のエッセイ集である。最後の「散文」が読みたくて買った。女学生の頃、図書館で鷗外の『阿部一族』を読んで、これが散文というものかと衝撃を受けたという。
 詩人の名前もいくつか登場する。戦時中に反戦詩を書いた金子光晴。ここではその女性探求に敬意が払われている。「櫂」の仲間の吉野弘。その「祝婚歌」をめぐって、詩と詩人とを照射する。ルンペン詩人とも呼ばれた、沖縄出身の山之口貘。徴兵される僧侶の変わり身を描いた「応召」という詩の、平熱のよさを説く。日本留学中に獄死した、韓国の人気ナンバーワン詩人、尹東柱ユン・ドンジュ)。茨木は弟の一柱(イルジュ)、その息子仁石(インソク)に会ったことがあるそうだ。今は岩波文庫でも読むことができる。ところで、五十を過ぎて始めた韓国語はかなりの域に達したようだ。韓国を縦横に旅してまわり、韓国人と交流し、詩を訳したりしている。それが彼女の思想である。
 新劇俳優の山本安英、劇作家の木下順二の話も印象的だ。木下順二の母の死の話もよい。

一本の茎の上に (ちくま文庫)

一本の茎の上に (ちくま文庫)