本の覚書

本と語学のはなし

「万葉集巻第二」藤原鎌足


 地震が起きた時は塾のビルの中にいた。危険を感じるほどの揺れではないが、不気味に長かった。今日は公立高校の合格発表があったので生徒らが大勢報告に来ていたけど、パニックにはならずに済んだ。
 みなさんのご無事をお祈りします。

95 あれはもや 安見児やすみこたり 皆人みなひとの 得かてにすといふ 安見児得たり

92 わたしは 安見児を得たぞ 皆の者が 得がたいと言っている 安見児を得たぞ


 安見児は采女(うねめ)であり、したがって天皇の私物であって、臣下は容易に近づくことができなかった。それを得た藤原鎌足が、全く技巧を用いずストレートに感情を詠んだ歌。実に得意げだ。
 犬養孝はこれを万葉的なおおらかさの一例として紹介していた。それで私も中学以来ずっと記憶している。しかし、実はよく理解していなかったことが判明したので、以下文法に関するメモをしておく。
 第4句の「かて」は補助動詞タ行下二段活用「かつ」の未然形。「〜できる、〜に耐える」の意だが、通常は下に打消しを伴って不可能や困難を表す。私は「得かて」だけで「得がたい」を意味するのだとばかり思っていた(原文も「得難」だけど)。次の「に」は、ずっと助詞と勘違いしていたが、打消しの助動詞「ず」の上代の連用形である。


 高校部の研修を受けてきた。やはりこちらの方が比較的自由に講義できる(難しい方へと脱線するのは控えようと思っているけど)。数学の無理強いさえなければ、居心地はいいだろう。
 昨日は授業見学もした。下位レベルのクラスだし、年度末ということもあるのだろうが、半分以上雑談だった。知識を授ける力ならある程度あるはずだと始めた塾講師だけど、もしかしたら、教える技術以上に教えない技術が必要な職業なのかもしれない。