本の覚書

本と語学のはなし

枕草子

「ただ、この返事(かへりごと)にしたがひて、こかけをしふみし、すべてさる者ありきとだに思はじ」と、頭中将のたまへば、ある限りかうようしてやりたまひしに、ただに来たりしは、なかなかよかりき。(78 頭中将のすずろなるそら言を聞きて

「ただこの返事次第で、こかけをしふみし、一切そんな者がいたとさえも思うまい」と、頭の中将がおっしゃったので、その場にいる者全部、いろいろ考えて、それをお送りになったのだが、使いの者が空手で帰って来たのは、かえってよかったのです。


 千年も前の文章だから時には分からないこともあるのは当然で、この文章中「こかけをしふみし」と「かうよう」が意味不詳であるという。前者には「籠懸け、捺し文し(封じ)」と読む説があるというが、ここでは現代語訳も原文のまま。後者は「勘用(かうよう)」または「勘要(かんよう)」の義であるかとし、仮に知恵を絞ると解している。


 なおこの部分の語り手、橘則光清少納言と夫婦関係にあった人。この段全体は、清少納言の自慢話である。