本の覚書

本と語学のはなし

『闇の奥』


コンラッド『闇の奥』(黒原敏行訳、光文社古典新訳文庫
 帝国主義時代の象牙交易にまつわる非人道的な状況の一端を知ることができて興味深いが(コンラッドは実際に当時のコンゴを航海士として体験している)、必ずしもそういうことを描くのが目的ではないようで、どうもこの小説のポイントをしっかり押さえたという自信を持てないまま読み終えてしまった。私がすっかり魔境にひそむ何かと交信する神秘的な能力を失ったせいか。クルツの造形がピンと来ないせいか。新訳が親切すぎるせいもあるのだろうか。正直言って、前半で十分という気がする。

闇の奥 (光文社古典新訳文庫)

闇の奥 (光文社古典新訳文庫)