本の覚書

本と語学のはなし

居酒屋

 « Ah bien ! criait Mme Lorilleux dans toute la rue de la Goutte-d’Or, mon imbécile de frère en voit de drôles !... il ne manquait plus à la Banban que de faire la vie. Ça lui va bien, n’est-ce pas ? » (p.183)

 「ほんとにね!」ロリユのおかみはグート・ドール街のいたるところでわめきたてていた。「弟のまぬけったら、ばかな目を見て!…… あのびっこめ、あげくのはてに男狂いまでして。いかにもあいつらしいじゃないの」 (p.184)


 〈En voire de drôles〉は〈変な[嫌な]目に遭う〉、〈faire la vie〉は〈ふしだらな暮らしをする〉の意味でいいだろう。
 しかし、〈manquer〉のところがつかみにくい。辞書には〈Il ne manquait plus que cela [ça].〉という表現が載っていて、〈最悪の事態になった.泣き面に蜂だ〉という意味だとある。この〈que〉は同格を導く虚辞だろうか。まあ、あまり深くは考えずにパズルのように解けば、〈faire la vie〉という最悪の事態が〈la Banban〉に起こったということになりそうだ。翻訳もその線のように見える。
 どうも会話は分かりにくい。ゾラが意図的に庶民の言葉を収集し書き留めているせいもあるだろう。まだ腑には落ちないけれど、メモしておく。