本の覚書

本と語学のはなし

『グリーン資本主義』


佐和隆光『グリーン資本主義 グローバル「危機」克服の条件』(岩波新書

 昨年のリーマン・ショックを契機に、世界同時不況がはじまった。今、同時不況には「底入れ感」が漂いはじめたものの、グローバルなケインズ問題と私が呼ぶ「グローバルな規模での生産能力の過剰」の状況が、世界同時不況再来の火種としてくすぶっている。かねて私は、こうした点に鑑みて、グローバルなケインズ主義、すなわち先進国が新興国発展途上国に投資して、膨大な潜在的需要を掘り起こすことの必要性を説いてきた。そうした投資の誘因となるのが、「京都議定書」に明文化されたクリーン開発メカニズム(CDM)にほかならない。ここにもまた、気候変動の緩和策と経済成長・雇用創出の固い絆が実見される。(197頁)


 CDMというのは、附属書Ⅰ国と呼ばれる先進38カ国が、限界削減費用(もう1単位の温室効果ガスの排出削減をするのに要する費用)の相対的に低い発展途上国への投資により削減した排出量の一部または全部を、自国の削減分にカウントできるという制度のこと。排出枠取引とは別物である。


 ことほど左様に、温暖化対策が経済を停滞させるわけではなく、そのための具体策があるということが、いろいろと示されている。経済界からはあまり歓迎されない本だろう。
 以下に引用するのは、2000年のCOP6の日本政府代表団について、著者の友人である財務官僚が漏らした言葉。この時の日本の主張は、基準年は排出量(グロス)で勘定し、約束期間は森林吸収の全量を差し引く(ネット)というものだった。基準年にも森林は存在しているのだから、理にかなわないことは小学生にでもわかる。

その財務官僚いわく「日本の官僚は、二週間の国際会議の席上、理不尽なことを言いつのり世界の笑いものになるよりも、理にかなう提案を受け入れて、帰国してから日本経団連に謝りにゆくほうがつらいのですよ」と。(108頁)