本の覚書

本と語学のはなし

H君


 夕べ、高校時代の友達のH君からメールが来た。
 大学卒業後に就職した会社からリストラされ、アルバイトしながら社会保険労務士の資格を取得したもののそれを活かせる仕事は見つからず、アルバイトを継続してようやく正社員待遇になった。ここまでは知っていたこと。
 その後不況のあおりを受け勤務先の倉庫が閉鎖になってまた失職し、故郷に戻る決意をしたのだが、実家ではなくて二つ離れたS市にアパートを借りた。これが今回のメールの内容。
 詳細は書かれていないので分からないが、S市に就職口を見つけたのだろう。車があれば彼の実家からも十分通勤可能なところだけど、たぶん持ってないのだろうし、ひょっとしたら免許も取得してないのかもしれない。


 だめおやじのような風貌で、趣味もおやじ臭い。高校時代は国会中継を見るのが好きだったり、わずか500円の小遣いを野球雑誌に注ぎ込んだり(ロッテのファンだったので、落合が在籍した期間だけ中日のファンを兼ねた時期もあった)。東京に出てからは競馬愛好家にもなった。
 大学での専攻は哲学で、そう思ってみればどことなくソクラテスみたいではあるが、哲学が好きだったわけではなく(図書館に上巻がなかったからという理由で、『ツァラトゥストラ』を下巻だけ読んだ男である)、偏差値と相談したらほとんど他に選択肢がなかったのである。


 同じように没落してゆく同志として、交流が深まるかもしれない。お互い独身でもあるし。それとも彼は、故郷に戻ったのを機に、婚活に力を入れるつもりなのだろうか。
 一緒に仕事をすることも考えてみたが、少なくとも翻訳に関しては、高校時代の絶望的にセンスを欠いた英語能力を知っているだけにあり得ない話である。