岩波文庫『大転落』の底本と私が読んでいるペンギン版とでは、少し異同があるそうだ。とくに注記はしないとのことなので、翻訳の工夫と思っていたところが実は原文の違いだったということもあるかもしれない。
‘It’ll be more if they attack the Chapel,’ said Mr Sniggs. ‘Oh, please God, make them attack the Chapel.’ (p.10)
「チャペルを襲ってくれたら、もっとになるでしょう。おお、神よ、彼らをしてチャペルを襲わしたまえ! アーメン」と、スニッグス先生。(9頁)
罰金欲しさにこのようなことを口走る副学生監。「アーメン」は訳者が敢えて付け加えたものか、底本には存在する言葉なのか。これが分からないのは、ちょっと不便である。
この直後に、翻訳では以下のように続く。
「債務調査団の一員としてブダペストにいたときの、共産主義者の蜂起を思い出しますよ」
「分かってますよ」と、ポスルスウェイト先生。スニッグのハンガリー回顧談というのは、スコーン・カレッジでは知らない者がなかった。(9頁)
この文章は、ペンギン版ではそっくり欠けている。
しかし、なにはともあれ、楽しい読書になりそうだ。