本の覚書

本と語学のはなし

Bel-Ami


 久し振りに『ベラミ』から。ノルベール・ド・ヴァレヌの嘆き。
 翻訳は岩波文庫の杉捷夫のもの。

Il arrive un jour, voyez-vous, et il arrive de bonne heure pour beaucoup, où c’est fini de rire, comme on dit, parce que derriére tout ce qu’on regarde, c’est la mort qu’on aperçoit.
(...) Et maintenant je me sens mourir en tout ce que je fais. Chaque pas m’approche d’elle, chaque mouvement, chaque souffle hâte son odieuse besogne. Respirer, dormir, boire, manger, travailler, rêver, tout ce que nous faisons, c’est mourir. Vivre enfin, c’est mourir !

いつかはその日が来る。いいかね。多くの人間にとってはずいぶん早くやって来る。世間で言うように、笑っていられない時がね。どんなものを眺めても、その背後に死が見えるようになるからね。
(…)そして今では、僕は、自分のすることなすことにつけて、自分が死んで行くのを感じているのだ。一歩一歩が僕を死に近づける。一挙手一投足が、吐く息の一度ごとが、忌まわしい死の工作を速めるのだ。呼吸をし、眠り、飲み、食い、働き、夢想に耽る、そうした我々のするすべてのことは、それはつまり死ぬことだ。つまり、生きるということが死ぬことなのだ!(上210-1頁)


 彼は老境にさしかかって死を意識するようになったらしいが、私は子供の頃からずっとこうした無力感と同居している。最近特にひどくなってきている気がする。
 モーパッサンは何を書いてもどこか戯画的なタッチになるし、私にはあまりにも馴染み深い思想だから、これを読んで深く心を動かされたわけではない。ちょっと面白いと思ったのである。心配には及ばない。