本の覚書

本と語学のはなし

吾輩は猫である


 『吾輩』から書き抜き。

坊ちゃんもなかなか自信家だから容易に姉の云う事なんか聞きそうにしない。「いやーよ、ばぶ」と云いながら雑巾を引っ張り返した。このばぶなる語はいかなる意義で、いかなる語源を有しているか、誰も知ってるものがない。ただこの坊ちゃんが癇癪を起した時に折々ご使用になるばかりだ。(414頁)


 ひょっとしてサザエさんに出てくるイクラちゃんのバブーは、苦沙弥先生とこの3歳になる娘に起源を持つのだろうか。ただ、この子がばぶと言うのは癇癪を起した時だけで、少しは舌足らずに喋ることもできる。

人間の定義を云うとほかに何もない。ただ入らざる事を捏造して自ら苦しんでいる者だと云えば、それで充分だ。(424頁)


 後半に入るにつれて、病んだ漱石の膿がどんどんと吐き出されていくような気がする。