本の覚書

本と語学のはなし

The Moon and Sixpence


 モーム『月と六ペンス』の行方訳。

 I think there would have been something ironic in the picture of the successful old man, rich and honoured, living in another the life which he, though knowing it was the better part, had not had the strength to pursue.

 世俗的な成功を収め、裕福で社会的に地位の高い老人が、より良い道とは知りつつも、自分は放棄した真の芸術家の厳しい人生を、得々と他者に忠告する姿は、相当皮肉っぽく描けたであろう。


 「living」以下を、挿入句を外してやや堅く直訳調で再現してみると、「自分では追求することのできなかった生を他者の内に生きる」というほどの意味になるだろう。行方は「自分は放棄した真の芸術家の厳しい人生を、得々と他者に忠告する」とパラフレーズする。
 翻訳は当該部分だけではなく、前後を睨みながら行うものなので、原文に多少手を加えることはある。しかし、ここまで来ると、安易に肯定するのはちょっと不安になる。