本の覚書

本と語学のはなし

The Moon and Sixpence


 『月と六ペンス』の行方訳。


□Women are constantly trying to commit suicide for love, but generally they take care not to succeed. It’s generally a gesture to arouse pity or terror in their lover.


■女は惚れたの振られたのと言って自殺しますがね、大体は死なないで済むように気をつけます。愛人に同情なり恐怖心なりを引き起こそうというつもりなのですよ


 以前『月と六ペンス』を読んだのは、ちょうど自殺未遂の常習者がアパートの部屋に押しかけてきた頃のこと。当時私が本当にモームの英語を理解していたのかどうかかなり怪しいが、この部分は正確に読んでいたはずである。この文章だけは、ずっと記憶に残っている。
 その後の彼女がどうなったか知らない。しかし、私はこの文章だけを根拠に推測をしていた。彼女が自殺なり自殺未遂なりをしたのだとしたら、私がそれについての知識を得るようなやり方を選択しただろう。私が何も知らないということは、少なくとも私が原因で行為に及ぶことはなかったのであろうと。それに、彼女は神父の元に帰ることができた。
 個人的な事情があるために、たとえ情のない医師のセリフであるとしても、行方訳では物足りないような気がしてしまう。