本の覚書

本と語学のはなし

『翻訳夜話2 サリンジャー戦記』

村上春樹柴田元幸『翻訳夜話2 サリンジャー戦記』(文春新書)
 暫くブログを更新していなかったのはミニマムな生活を送っていたせいであるけれど、精神的に落ち込んでいたというよりは、暑さに体がついていかないという感じであった。日々きちんとこなしているのは、午前中の図書館通いだけ。つまり「ニューズウィーク」と「ディプロマティク」を読むだけなのだが、辛うじて英語とフランス語の勘だけは失わずにいる。
 『サリンジャー戦記』は、村上と柴田の2度の対談、村上による『キャッチャー』の訳者あとがき、柴田によるパロディー的な解説からなる。面白いことは面白いし、『キャッチャー』理解のためにはぜひ読んでおいた方がいいとも思うのだけど、商売上手という感じもしてしまう。
 アメリカ文学のことはよく知らないが、イノセントってそんなによいものかねって気はする。そういえばF君も、幼子のようにならなくては天国に入ることはできないというイエスの言葉を聖書の中でも殊更愛していたし(大学に入った頃にはもうクリスチャンではなかったけれど)、障害を持つ弟の内にイノセントなものを見出している節はあったし、それはそれでいいのだけど、それが答えであってもいいのだけど、それを信じることが文学の根底であってもいいのだけど、何というか大文字のイノセントを掲げることがいい表現だとは思えないし、それにやっぱりイノセントってことはガラスケースの内に収めておかなければいけないもんだとばかり決めつていいもんじゃないと思う。