本の覚書

本と語学のはなし

『翻訳夜話』


村上春樹柴田元幸『翻訳夜話』(文春新書)
 文芸翻訳を志す人は必読だと思う。私が推薦しなくても読むだろうけど。


 村上訳の『グレート・ギャツビー』『ロング・グッドバイ』『キャッチャー・イン・ザ・ライ』『カーヴァー傑作選』を持っているけど、まだ読んでいない。『翻訳夜話』の中で、村上と柴田が同じ作品(カーヴァー「収集」、オースター「オーギー・レンのクリスマス・ストーリー」)を翻訳してそれを並べてみるという試みをしていて、そこで初めて村上訳を読んでみた。
 村上の言うことを鵜呑みにして、そのとおり真似してみても上手くいかないだろう。村上風に訳したとしても、お前は素人かと一蹴されるだけだ。翻訳学校でも村上訳は欠陥訳の見本のように見なされるはずだ。
 また村上訳の『ティファニーで朝食を』を原書とセットで買おうとしているのだが、しかし、村上訳が好みかと言われると、ノーと答えるしかない。こなれた日本語にするつもりで臭みを加えてしまうというありがちな例よりはいいと思うのだが、翻訳にばかり目が行ってしまって作品に集中できない。まるっきり引っかかりのない訳文では寂しいが、一々気になる訳文は煩わしい。


 柴田訳がよかったかどうかはどうも判断しかねる。村上訳と切り離して、単独で鑑賞しなくてはいけないようだ。『月と六ペンス』の後は『体の贈り物』の原典講読をする予定なので、柴田の翻訳術はそこでじっくり検討することにしよう。

翻訳夜話 (文春新書)

翻訳夜話 (文春新書)