●薬袋善郎『思考力をみがく英文精読講義』(研究社)
扱っている文章は15しかなくて、その分解説が長い。ほとんどの文章が大学入試問題からとられている。いくらなんでも入試の英文がそれほど難しいことはないだろうと思っていたら、意外と難解だ。受験生に同情してしまう。と同時に、私の読解力ではとうてい翻訳を商売にするなんて無理だと思われてきて、誰彼となく同情を強要したい気分にもなる。
あとがきを見ると、英文を読む力を以下のように類型化している。
Level1 自分の誤読を正解だと確信している段階
(1-a) 自分の誤読を正解だと確信し、本当の正解を見せられても、それが正解であることがわからない。
(1-b) 自分の誤読を正解だと確信しているが、本当の正解を見せらると、それが正解であることがわる。
Level2 自分の読み方を誤読ではないかと疑う段階
(2-a) 自分の読み方は誤読ではないかと疑っているが、いくら考えても正解を思いつかない。
(2-b) 自分の読み方は誤読ではないかと疑っていて、じっくり時間をかけて考えると正解がわかる。
Level3 はじめから正解がわかる段階
(3-a) はじめから正解がわかるが、同時にそれ以外の読み方(=誤読例)も思いつく。
(3-b) はじめから正解がわかるが、それ以外の読み方(=誤読例)など思いつきもしない。
で、こんなことを告白している。「ちなみに私自身の力を正直にいうと、Lesson12は(2-b)で、Lesson14は(3-a)です」(204頁)。
これはちょっと心強い。いや、英語がよく出来ると思っていたり思われていたりする人も、実はけっこう誤読しているんではないかと疑っていたのだ。大切なのは、読み間違えているときでさえ、誤読ではないかと感じるセンスである。翻訳をする際の語学力として決定的に重要なのはこれではないか。少なくとも(2-b)に至っているのであれば、そう悲観することもない。
と気をよくして、ちょっと厳しい現実から目をそらせる。
- 作者:薬袋 善郎
- 発売日: 2002/11/01
- メディア: 単行本