本の覚書

本と語学のはなし

Totalité et Infini


 Elle est la franche présence d’un étant qui peut mentir, c’est-à-dire dispose du thème qu’il offre, sans pouvoir y dissimuler sa franchise d’interlocuteur, luttant toujours à visage découvert.


 その現前*1は、嘘をつくことのできる存在者の、しかし率直な現前である。ことばを換えれば、その存在者はじぶんが提供する主題を自由に処理するけれども、そのさいも対話者としての率直さを主題のかげに隠蔽することはできず、つねにあらわになった顔をさらして闘うのだ。


 レヴィナス『全体性と無限』第1部(B 分離と語り)より。
 熊野訳を示しておけば十分だが、要するにいったん切って訳すという手法。
 他に、「sans」以下も、「luttant」以下も、副詞的にあるいは形容詞的に訳し上げたくなるところを、思考の流れに沿って順番に訳し下ろしている。「y」の指す内容を、「主題のかげに」と明確にして訳している、などなど。
 それでも何を言っているのか分からないとしたら、それはレヴィナスの責任である。

*1:最初の「elle」のこと。