本の覚書

本と語学のはなし

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 病院事務員としての私が嫌いだったように、地方公務員としての私に耐えられなかった。私はあらゆる肩書きが嫌いなのだ。死に際してようやく森林太郎として死ぬことを表明した鴎外のようには、我慢強くないのだ。
 あらゆるものを捨てて生きてゆきたい。私が幾度も出家を考えながらついにしなかったのは、少なくとも現代において、出家が捨てる生き方ではないからだ。たいていそれは家を守るためである。永平寺の修行僧もほとんど寺生まれの「在家」だそうだ。
 底辺で生きてゆきたい。そこからしか見ることのできない世界がある。そこでしか生きることができない。