本の覚書

本と語学のはなし

プルタルコス英雄伝(下)/プルタルコス

 収録されているのは、クラッススポンペイウスカエサルキケロ(付比較)、アントニウス。天寿を全うした人は一人もいない。
 キケロが比較されているのはデモステネス(上巻)。カエサルのペアはアレクサンドロス(中巻)であるが、これにはもともと比較がついていない。
 クラッススの相手はニキアス、ポンペイウスはアゲシラオスアントニウスはデメトリオスであるが、いずれもギリシア方のペアが選に漏れたので、比較も省略されている。


 プルタルコスが描くキケロ像。
 小心で臆病であるにもかかわらず、名誉欲に取りつかれた皮肉屋で、政治から身を引くことができずに、最後はアントニウスの手下によって、首とともに、アントニウス攻撃の『フィリピカ』を執筆した右手をも切り落とされた。


 アントニウスの没落は、彼自身の性格にもよるのだろうけど、クレオパトラに牛耳られたことが全ての判断を誤らせたようだ。

アントニウスクレオパトラはかの「真似のできない生活人アミメートピオイ」のクラブを解散し、それに劣らず趣のある、豪華で贅沢な別のクラブを作り、「死を共にする人々シュナポタヌーメノイ」のクラブと名づけた。というのは友人たちは一緒に死ぬ者としてそのクラブに登録され、もち廻りの宴会で愉快に時を過ごした。さらにクレオパトラはさまざまな致命的な効きめのある毒薬を集めて、そのひとつひとつの苦痛のない作用を試すために死刑囚に服用させた。ところですぐに死ぬ毒薬は苦痛によって死に方が激しく、他方穏やかな毒薬は時間がかかるのを見て、毒をもつ動物が互いに咬み合うところを実験し、自分で観察した。それを毎日行っているうちに、ほとんどすべての中で、アスピスという蛇が咬んだのは、痙攣や苦悶をひき起こさず、睡眠と顔の軽い発汗をもたらすだけで、感覚が容易に麻痺して減退し、あたかも熟睡している人の場合のように、呼び起こして目覚めさせることが難しくなるということを発見した。(p.424)

 自殺クラブの平素の活動は、贅沢に飲み食いすることであった。
 クレオパトラが蛇で自殺したのかどうかは確証はないが、一般的にそう信じられていたようだ。