ラケスは『饗宴』にも名前が出てくる軍人である。そこではアルキビアデスの証言として、デーリオンの敗戦において、ラケスとソクラテスが勇敢に退却していたことが語られる。同じことは、『ラケス』の中でもラケス自身が話している。
主にこのラケスとニキアスとに質問しながら、勇気について追究していくのだが、結局は両者ともに袋小路に行き当たってしまう。解決策は提示されず、アポリアに陥ったまま議論は終了する。
短いが、しっかり読解し、解釈しようとすると、案外難しい。専門家の間でも、この対話篇が何を目指したのか、ソクラテス自身、あるいはプラトン自身の主張はどこにあるのか(徳とは一つであるのか、部分に分割できるものなのか)というような問いに、一致した見解がある訳ではない。
プルタルコスの代わりにプラトンを読むという選択肢は、もう考えていない。こんな小篇でも消化不良を起こしそうである。どうしてそう簡単に合意するのだと言いたくなるところでも、登場人物の間で合意されれば、話はどんどん進んでいく。あちらこちらで、「ちょっと待ってくれ」と言いたくなる。そして最後にはアポリアに突き落とされる。それが狙いの一つではあるのかもしれないが。
文庫本で手に入る代表的なものだけ翻訳で読めばいいかなと思う。ところで、三嶋輝夫は講談社学術文庫にいくつかプラトンの翻訳を提供しているが、他の文庫では読めないものばかりで(『ソクラテスの弁明』にも、クセノポンの同名の著作が付録として入っていた!)、貴重である。