本の覚書

本と語学のはなし

【ギリシア語】近づいた物体の表面からの発散物を捉えて【多くの友】

 プルタルコス『多くの友をもつことについて』を読了する。
 リデル&スコットの中型辞典では間に合わないことが多い。しかも机から落としてしまって、前から少し怪しかったのだが、いよいよ壊れそうな気配が濃くなってきた。そこで、思い切ってバイイの希仏辞典をメインで使うことにした。
 紙の大きさは大して違わないのだが、例文にフランス語訳を付けていることもあって、非常に分厚い。3段組で、1単語1段落。ごちゃごちゃしていて、見にくいことこの上ない。決して使いやすいとはいえないのだが、単語が見つからないというストレスからは解放された。


καίτοι τοῦ πολύποδος αἱ μεταβολαὶ βάθος οὐκ ἔχουσιν, ἀλλὰ περὶ αὐτὴν γίγνονται τὴν ἐπιφάνειαν, στυφότητι καὶ μανότητι τὰς ἀπορροίας τῶν πλησιαζόντων ἀναλαμβάνουσαν· (96F)

とはいえ、蛸の変化は深い部分の変化ではなく、その表面だけの変化であり、皮膚組織の密度を高めたり弛めたりすることによって、近づいた物体の表面からの発散物を捉えて変化するのである。(p.39)

 多くの友をもつこと(ポリュピリア)が友情(ピリア)と対置される。ポリュは「多くの」という意味で、ポリネシアとかポリ袋とかのポリはこの語が起源である。
 引用した部分は、ポリュピリアの実体がどういうものであるかを説明するために、先ずタコの比喩を用いたところである。
 タコと訳されているのはポリュプース(原文では属格のポリュポドス)。直訳すれば「多くの足を持つもの」ということである。ポリュピリアと響き合っているが、ここでは足の多数性を問題にしているわけではない。
 変化と訳されているのはメタボライ(単数形はメタボレー)。メタボの語源であるが、これは元来代謝のことを指している。
 「皮膚組織」以下のところ。日本語訳では分かりにくいかもしれないが、原文の動詞は分詞の形をしており、女性・単数・対格であるから、これはその前の「その(タコの)表面」を修飾している。
 直訳すると、「その表皮は、粗密によって、近づく物体からの発散物を捉える」ということである。発散物というのが、古代原子論を受け入れたものなのか、別の説なのか、私は知らないが、ミクロなレベルでの物質間の交信ということは、むしろ古代人の方がビビッドに感じていたのかもしれない。


 モンテーニュが「友情について」(1.28/27)を書くにあたって、恐らくは念頭に置いていた論考の一つであると思う。