εὔπλαστον γὰρ καὶ ὑγρὸν ἡ νεότης , καὶ ταῖς τούτων ψυχαῖς ἁπαλαῖς ἔτι τὰ μαθήματα ἐντήκεται· (3E)
なぜなら、若いときは可塑性に富み柔軟なので、学んだことがまだ柔らかな魂の奥深くにまで染み入るからです。(p.10)
ホメロスを休止し、プルタルコスを始めて2週間になる。当初予想していたほどの読みにくさは感じない。
辞書はオックスフォードのIntermediateを使っている。たぶん、ギリシア語を読むほとんどの人が標準的に使っているものだと思う。中辞典とはいえ、そこそこ大きい。
ところが、Intermediateでは間に合わないことがしばしばある。単語が見つからなかったり、ぴったりの意味が載っていなかったりするのだ。
一番大きいオックスフォードの辞書も持っているが、大きすぎて調べるのが億劫なので、アシェットの希仏辞典を引く。そうすると、大抵今読んでいたプルタルコスの文章が用例として出ている。
プルタルコスが使用頻度の低い言葉をしばしば使うということなのだろうか。だいたいは合成語や派生語であるから、意味の推測はできるのだけど、慣れない内はやはり辞書で一々確認しないと気持ちが悪い。
さて、引用は今日読んだところである。
Intermediateにはeuplastonという単語が見つからない。euは「よい」という意味である。たとえばエウアンゲリオン(エヴァンゲリオン)は「よい使信」、つまり「福音」のことだ。plastonはひとつ前の文章に出てくるplattein(形成する)という動詞から派生した語であるから、euと合わせて「よく形成できる」というような意味になるだろうと予測できる。
希仏辞典を引くと「facile à façonner」とあるし、日本語訳では「可塑性に富み」とあるから、間違っていなかったと確認できる。そこまではよい。
使用頻度は低いのかもしれないが、この語の使用者の代表は決してプルタルコスではないのである。希仏辞典には、プラトンの『国家』や『法律』、アリストテレスの『詩論』などに用例があるとしている。
例えばプラトン『国家』588Dにはこうある。
ὅμως δέ, ἐπειδὴ εὐπλαστότερον κηροῦ καὶ τῶν τοιούτων λόγος, πεπλάσθω. (588D)
それでもしかし、言葉は蠟やそれに類するものよりも自由にこねやすい材料ですから、そのような怪物の姿がつくり上げられたものとしましょう(p.291)
ここではeuplastonがeuplastoteronという比較級になっている。藤沢令夫は「~よりも自由にこねやすい〔材料〕」と訳している。
最後のpeplasthōは動詞platteinの受動態、完了、3人称単数の命令形である。藤沢訳では「そのような怪物の姿がつくり上げられたものとしましょう」と長たらしく補っているが、原文では「〔それが〕形成されたものとせよ」と一言で言っている。
そんなわけで、プラトンの代表的な作品で使われる言葉さえ、Intermediateに載っていないことがあるという発見に、ちょっとショックを受けたのであった。