本の覚書

本と語学のはなし

宇宙はなぜ物質でできているのか/小林誠編著

 宇宙はなぜ物質でできているのか?
 当たり前だと思うかもしれない。「なぜ存在者があるのであって、むしろ無があるのではないのか?」と問う形而上学のような響きを感じるかもしれない。
 だが、宇宙が物質でできているというのはそれほど当たり前のことではないし、これは「なぜすべてが消滅するわけけでもなく、反物質がつくられるわけでもなく、物質だけが残ったのか?」というような物理学的な問いであって、哲学のそれではない。
 原子よりも小さな素粒子の世界には、粒子と対になる反粒子があって、対消滅したり対生成したりする。粒子と反粒子が等しい世界では、物質も反物質もつくられないと考えられる。ところがなぜか、現実の世界は物質でできている。おそらくは、対称性に破れが生じているのであろう。
 それを解明するのが素粒子物理学の大きな目的の一つである。


 この本はノーベル物理学賞を受賞した小林誠が、高エネルギー加速器研究機構KEK)の人たちとつくったもの。どちらかというと、素粒子物理学の入門書というよりは、加速器の物語といった感じである。