本の覚書

本と語学のはなし

入門 現代物理学/小山慶太

 現代物理学の発展を、重力、真空、電子、物質、地球という章立てで紹介する。
 古典物理学はまだ人間の感覚の範囲内に収まっていたが、現代物理学は見えないものをも扱い、操作し、観察し、往々にして直感的には理解できないようなことを発見し、あるいは理論的に導き出す。
 それを記述するための数式も相当に高度であるはずだが、新書の入門書なのでほとんど言葉だけでかみ砕いて説明してくれる。たまに出てくる数式も、必ず理解しなくては先に進めないというものではない。
 しかし、それでも全てが明瞭に分かるわけでもないけれど。

 念を押すまでもなく、ニュートン力学相対性理論もともに、同じ物理学の理論である。でありながら、両者の間には、たとえば速度の上限の合成則、時間や空間の概念などに根本的、本質的な差異が見られる。ニュートン力学が適用される世界の常識は相対性理論に委ねられる世界に入ると、まったく通用しなくなるわけである。
 つまり、我々の五感で捉えられる世界と五感ではとても捉えきれない世界の間には、あたかも両者を分ける臨界条件が設定されているかのように見えてくる。そして20世紀のはじめ、アインシュタインはこの臨界条件を超え、物理学をニュートン力学から相対性理論へと“相転移”させたのである。
 〔中略〕
 似たような事態は、やはり20世紀のはじめ、量子力学の確立によっても生じたのであった。粒子と波の二重性や不確定性原理にもとづいで記述されるミクロの対象(原子、原子核素粒子)はこれまた、我々の常識では理解不能な、そして目に見える現象とはおよそ相容れない振る舞いを示すわけである。波動方程式と銘打ちながら、粒子の質量が組み込まれたシュレディンガー方程式の形に、マクロな対象を扱う物理学がミクロの領域に踏み入ったとき見せる変身ぶりが象徴されている。
 このように、古典物理学を脱皮して相対性理論量子力学を基礎とする、新しい体系ができあがったことにより、繰り返しになるが、物理学そのものが相転移を起こしたのである。(p.232-3)

 同じH2Oでも、液体の水であったものが0度を境に固体の氷になったり、100度を境に気体の水蒸気になったりするのを、相転移という。金属が絶対0度に近づくと、突然電気抵抗がほとんどなくなり超伝導の性質を示すのも、電気的な相転移である。生まれたばかりの宇宙が急激に膨張したのは、真空が相転移したからであるというのが、インフレーション理論である。