本の覚書

本と語学のはなし

サー・トーマス・モア/ウィリアム・シェイクスピア

 解説が不十分なので、三省堂の『ハンドブック』から書き抜いておく。


シェイクスピア・ハンドブック

シェイクスピア・ハンドブック

  • 発売日: 2010/06/18
  • メディア: 単行本

手稿原稿として後世に残った芝居であり、執筆は1592年から93年と考えられている。〔中略〕この劇は共作と推定され、アンソニー・マンディが戯曲の原本を執筆、シェイクスピアを含め4人以上の劇作家が改訂を施して成立している。〔中略〕シェイクスピアが改訂した箇所は、1517年5月上旬にロンドンで起きた、外国人に対する暴動の箇所と推定されている。(p.71)

 扱っている時代は『ヘンリー八世』と重なるが、書かれたのは大分前だし、シェイクスピアの執筆箇所もごく僅かである。
 金田綾子が言うように、『リチャード三世』と『ヘンリー八世』の間を埋めるかの如く『サー・トーマス・モア』が書かれたと考えるのは無理がありそうだ。


 翻訳はずいぶん拙い。語学的な問題もあるかもしれないが、何よりも日本語がこなれていない。
 一例を示しておく。ニュー・オックスフォードの全集には、シェイクスピア執筆推定箇所しか原文が載せられていないので、その中から選んだ。

そう、全市を病毒で汚染するんだ。何故なら、御存じの通り、
肥料で成長するこれ等の糞野郎が伝染させるんだ。市民が感染すれば、
全市を震え上がらせるだろう。赤蕪なんか食べるとこういう事に
なるんだ。(第2幕第4場)

Nay, it has infected it with palsy, for these bastards of dung―as you know, they grow in dung―have infected us, and it is our infection will make the city shake, which partly comes through the eating of parsnips.

 外国から入ってきた野菜と外国からの移民に対する憎悪が重ね合わされている。「肥料」は人糞のことであるし、「震え上がらせる」というのは中風によるごとくということである。
 そういうことが翻訳からはほとんど感じられない。


 読み終わらぬ内に、玉木意志太牢訳を注文してしまった。