本の覚書

本と語学のはなし

ソネット集/ウィリアム・シェイクスピア

ソネット集 (岩波文庫 赤 205-5)

ソネット集 (岩波文庫 赤 205-5)

 ソネットはイタリア発祥の14行詩。1篇の中に完結した論理を有し、その連作は「叙情の海に浮かぶ群島」とも評される。


 シェイクスピアソネットは154篇。
 その内、1から126まで(全体の8割以上!)が美貌の青年に対する愛を歌っている。これが同性愛なのか強い友情なのか文学的虚構なのか、諸説あるようだけれど、作品を読む限りは同性愛のようにしか思われない。

  98


春の間、私はきみから離れて過ごした。
色あざやかな四月が晴着に着飾り、
あらゆるものに青春の息吹きをふきこんだので、
陰気なサートゥルヌスさえ、笑い声をあげて、
一緒に踊りまわっていた。だが、鳥のうたを聞いても、
色も香もとりどりに咲く花々のあまい匂いをかいでも、
私は夏むきの楽しい話を語る気にはなれなかったし、
咲き乱れる花床から花をつむ気にもならなかった。
百合の花の白さをめでることもなく、
薔薇の深い赤らみをほめることもなかった。これらは
芳香を放つだけのもの、要するに、きみをなぞった
快い模写にすぎない。きみがすべての手本なのだ。
 ともかく、まだ冬の感じがした。そして、きみがいないから、
 きみの影と戯れるように、私はこれらと戯れた。


 127から152までは、謎の女性「ダーク・レイディ」を主題としている。誰だかは分からないが、その愛の内実は青年の場合よりもはっきりしている。詩人は隠そうという意志もなく、それは理性から見放された病的な食欲だと明言しているのだ。
 美貌の青年はダーク・レイディと関係を持ったことがあるとも推測されている。青年の詩の中に(40-41)、詩人の恋人と情事があったことが書かれている。そして、ダーク・レイディの詩の中には、詩人の友を虜にしたことが書かれている。これを総合すれば、詩人の恋人とはダーク・レイディのことであり、詩人の友とは美貌の青年であったということになりそうなのだ。

  133


わが友と、わたしにあれほど深い手傷を負わせて、
わが心を呻かせる、あの心に禍いふりかかれ。
私ひとりを痛めつけるだけではたりずに、
わが優しき友まで奴隷の身におとさねば気がすまぬのか。
その残酷な眼は私自身から私を奪いとり、そのうえ
なお無情にも、第二の我なる友を虜にした。
私は友にも、私自身にも、おまえにも見すてられた。
こんな目にあうなんて九層倍もの拷問を受けるにひとしい。
私の心はおまえの鉄の胸の牢獄に押しこめられても、
わが友の心は私のあわれな心に収監しておきたい。
誰が私を牢に繋いでも、私の心は友の独房にしておこう。
私の牢屋でならおまえも酷い仕打ちにはでられまい。
 でも、やはりだめか。おまえに繋がれた私も、
 私のなかのすべても、否応なくおまえのものだから。


 ソネットがいつ頃書かれたのか定かではないが、シェイクスピアアン・ハサウェイと結婚したのは18歳の時(1582年)であり、恐らく全ての詩は結婚後の恋愛をもとに作られたのだろう。