本の覚書

本と語学のはなし

オセロー/ウィリアム・シェイクスピア

 ヴェニスの将軍オセローは高潔なムーア人であるが、部下イアーゴーの策略に嵌まり、貞淑な妻デズデモーナの姦通を疑い、死に至らしめる。
 イアーゴーの動機は明瞭でない。自らの没落を賭け金として、危険なゲームに身を焦がす快楽、としか考えられないようである。
 ゲームのオセロの黒と白とは、オセローとデズデモーナの肌の色を表している。


 シェイクスピアの作品は、戯曲40篇にソネット集とその他の詩集を加えて、42冊読む予定であるが、これでやっと3分の1を終えたことになる。
 ここまでで決めたこと。シェイクスピアは何度でも読み返すべきだが、決して専門にはしない。原文に挑戦するのは、質量ともに難しそうだというだけではない。
 白水 U ブックスの全集の解説には、必ずテキスト、創作年代、材源、上演史、批評史について書かれている。どの一つを取っても、手強くて深入り出来ない。
 例えばテキスト。『オセロー』には、最初に出版された四折版 (Q1) と最初のシェイクスピア全集である二折版 (F1) の二つの重要なテキストがある。F1 は Q1 より160行ほど多く、Q1には F1 にない章句が十数行ある。不敬として禁じられた、神の名を汚す誓言の類いが Q1 にはそのまま残されているが、F1 では修正されている。両者のト書きがかなり違う。現行のテキストでは編者によってどちらかが優先されるわけであるが、趣味に過ぎないにしろ仮にも「専門」とするのであれば、テキスト批判にも通じていなくてはならない。それは重荷である。
 翻訳で繰り返し読みながら、お気に入りのものだけ原文に挑戦するという程度の関わり方が丁度よい。